韓国のテンプルステイ入門:お寺で一泊すると、どんな一日になる?
韓国のお寺に泊まる「テンプルステイ」。3つのプログラムの違い、朝4時の礼仏、菜食の食事、作法、予約方法まで、仏教徒でなくても安心して参加できるよう公式情報をもとにまとめました。

まだ暗い山の中に、梵鐘の音が響きはじめる。お寺で借りた修行服のズボンをはき、少し寝ぼけたまま、列について本堂へと歩いていく。韓国のお寺に泊まる「テンプルステイ」を体験した人の多くが、いちばん心に残る場面として挙げるのが、この夜明け前の時間です。
高野山などの宿坊に泊まったことがある方なら、早朝のお勤めや精進料理の雰囲気はなんとなく想像がつくかもしれません。それでも、初めての韓国、しかも言葉のわからないお寺となると不安はつきものです。仏教徒でなくてもいいのか、108回もお辞儀をするのか、相部屋は大丈夫か、朝4時に起きられるのか。この記事では、韓国に暮らす私たちが、テンプルステイを運営する団体の公式情報をもとに、実際どんな一日を過ごすのか、どこが大変で、どこは無理をしなくていいのかを正直にまとめました。
テンプルステイとは? 誰が運営しているの?
テンプルステイは、韓国各地の仏教寺院で、修行者の日常を体験しながら泊まったり、短い時間を過ごしたりできるプログラムの公式名称です。運営しているのは、大韓仏教曹渓宗(チョゲジョン)の韓国仏教文化事業団。予約は公式サイト templestay.com から行い、英語版も用意されています。公式サイトでは、韓国の伝統文化と韓国仏教を理解するための文化体験プログラムで、読経や瞑想、お茶を飲みながらの対話、お寺の食事などを体験できる、と紹介されています。
日本の読者に少し身近に感じていただけそうなのが、その始まりです。公式サイトのよくある質問によると、テンプルステイは2002年、日韓ワールドカップの際に、海外から来る観光客に宿泊と韓国の伝統文化体験を同時に提供しようと、文化体育観光部と曹渓宗が共同で始めたものだそうです。いまでは外国人旅行者向けだけでなく、家族や学生、企業向けのプログラムも公式サイトに並んでいます。
プログラムは3種類
公式サイトでは、すべてのプログラムを3つのタイプに分けています。自分に合うタイプを選ぶだけで、不安の多くは解消できます。
| タイプ | 時間の目安 | 内容 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 当日型(One-day) | 2〜3時間ほど。お寺により午前10時ごろか午後1時ごろから | 境内の案内、瞑想、お茶。お寺によっては蓮灯(ハスの灯籠)や数珠づくり、写経 | 時間が限られていて、まずは雰囲気を知りたい人 |
| 体験型(Experience-oriented) | 1泊が基本。週末の開催が多い | 夜明け前の礼仏、108拝、鉢盂供養(伝統的な作法の食事)、瞑想、手づくり体験 | 初めてで、お寺の一日を一通り体験したい人 |
| 休息型(Rest-oriented) | 宿泊。自分のペースで | 礼仏や食事など基本の日課のみで、あとは自由時間 | とにかく静かに過ごし、考えごとを整理したい人 |
公式のよくある質問でも、初めての人には体験型、考えを整理する時間がほしい人には休息型、少しだけお寺の文化に触れたい人には当日型がすすめられています。プログラムを組み合わせて長く滞在することもでき、上限はお寺によって異なるものの、通常は10日ほどまでとのことです。料金もお寺やプログラムによって異なるので、templestay.com の各プログラムのページで最新の金額を確認してください。
1泊2日の流れ
日課はお寺ごとに異なり、季節によっても内容が変わります。下の表は、公式サイトのよくある質問で紹介されている、一般的な1泊2日の体験型プログラムの流れです。時刻はあくまで目安と考えてください。
| 時間の目安 | 内容 | 参加する側のポイント |
|---|---|---|
| 1日目 午後2〜3時ごろ | 受付、部屋の割り当て、境内案内、お寺での基本的な作法の説明 | 支給されるベストとズボンに着替え、お辞儀の仕方を教わる |
| 午後(お寺による) | 四物(サムル):法鼓・梵鐘・木魚・雲板の体験 | お寺に時を告げる4つの法具の音を聞き、場合によっては自分でも鳴らす |
| 夕方 | 夕食(供養/コンヤン) | 素朴な菜食。食べきれる量だけ取る |
| 夜 | 夕方の礼仏(イェブル)、108拝、瞑想 | 参加は自由。静かに座っているだけでもかまわない |
| 2日目 午前4時ごろ | 夜明け前の礼仏 | いちばんつらく、そして多くの人にとっていちばん心に残る時間 |
| 朝 | 朝食、運力(ウルリョク:みんなで行う作務)、僧侶との茶談、感想文 | 茶談は何でも質問できるチャンス |
| 正午〜午後1時ごろ | 昼食をとって解散 | 次の移動は午後早めの時間で計画を |

お寺の儀式を、やさしく解説
礼仏(イェブル)は、お寺の一日の始まりと終わりに行われる儀式です。公式サイトでは、お釈迦さまや菩薩、仏弟子に敬意を表す儀式と説明されています。夜明け前の暗がりに梵鐘が鳴り、僧侶たちの読経とともに一日が始まります。お経の言葉がわからなくても大丈夫。ほとんどの参加者は、周りに合わせて立ち、みんながお辞儀をするときに一緒にお辞儀をして、あとは耳を傾けています。
108拝は、立った姿勢から額を床につけるまで深く礼をし、また立ち上がる。これを108回繰り返す修行です。いわゆる五体投地に近い動きで、儀式というよりゆっくりした全身運動に近く、翌日に太ももが筋肉痛になる人も少なくありません。公式のよくある質問では、つらければ途中でやめてかまわないこと、宗教上の理由でお辞儀に抵抗がある場合は静かに座っていればよいことが、はっきり書かれています。
瞑想は「参禅」。公式サイトによると、禅は韓国語で「ソン(Seon)」と呼ばれ、心を整え集中する修行として、韓国仏教の修行の中心に位置づけられています。テンプルステイでは、その入門編を体験します。意外に「いちばんよかった」と言う人が多いのが、僧侶とお茶を飲みながら話す「茶談(チャダム)」です。公式の韓国語ページでも、テンプルステイの中でもっとも意味のある時間のひとつと紹介されていて、仏教のことでも、日々の悩みでも、気軽に話ができます。朝には、境内でみんなで行う短い共同作業「運力(ウルリョク)」が組まれていることもあります。
お寺の食事は菜食。ときに、とても本格的
韓国仏教は菜食が基本で、公式のよくある質問によると、テンプルステイでは肉や卵、インスタント食品はいっさい出ません。代わりに旬の山菜や野菜、豆腐や豆を使った料理が並びます。また寺院料理では、にんにくやねぎなど「五辛菜(オシンチェ)」と呼ばれる5つの香りの強い野菜も使いません。韓国料理といえば辛くてにんにくたっぷり、というイメージがある方には、そのやさしい味わいが新鮮に感じられるはずです。日本の精進料理に親しんでいる方なら、なじみやすいかもしれません。
お寺によっては、「鉢盂(パル)」と呼ばれる僧侶の器を使い、決められた作法に沿っていただく伝統的な食事「鉢盂供養(パルコンヤン)」を体験できます。公式サイトでは、全員が同じものを平等に分け合い、清潔に調理し、何ひとつ無駄にしない、という平等・清浄・節約の精神にもとづく修行のひとつだと説明されています。韓国語の公式ページには、食べ物が届くまでに力を尽くしてくれた人々と自然への感謝、そして米一粒も無駄にしないという心が込められている、とも書かれています。実際の場面では、自分が食べきれる量だけを取ることが何より大切です。作法を前もって覚えていく必要はありません。
どこで寝るの?
僧侶は共同生活を送っており、テンプルステイも同じ考え方にもとづいています。公式のよくある質問によると、部屋は相部屋が原則で、15人以上が泊まれる大部屋と、4〜8人ほどの一般的な部屋があります。トイレとシャワーは共用が基本ですが、トイレ付きの部屋もあります。男女は厳格に分けられるので、カップルでも部屋は別々です。一方で、同性の友人や家族で参加する場合は、できるだけ同じ部屋になるよう配慮してもらえます。追加料金で個室や2〜4人部屋を用意しているお寺もあるので、予約時に確認してみてください。
一人旅の方に向けて、公式のよくある質問は安全面にも触れています。部屋は鍵がないと出入りできず、内側から施錠も可能。夜10時以降は外部の人の出入りが制限され、テンプルステイの担当スタッフがお寺に常駐しているそうです。子ども連れの場合は、基本的に保護者など大人と一緒であれば参加できますが、運営方法はお寺によって違うため、事前にお寺へ問い合わせるよう案内されています。

これだけは押さえたい作法
到着するとまず作法の簡単な説明があり、完璧にできることを期待している人はいません。公式のよくある質問で挙げられているポイントは次のとおりです。
- 境内での飲酒、喫煙、大声での会話や歌は禁止。恋人同士の過度なスキンシップも控える。
- 境内を歩くときは、両手を体の前で軽く組む「叉手(チャス)」が基本。右手で左手の甲を軽く包むように持つ。
- 屋外で僧侶に会ったら、その場で立ち止まり、合掌して軽くお辞儀(合掌半拝)をする。
- 本堂などに出入りする前には、少し立ち止まって中央に向かい合掌半拝をする。
- お堂の出入りは左右の扉から。中央の扉と堂内の中央は僧侶のための場所なので避ける。
- お堂の中では大きな声で話さず、祈ったりお辞儀をしたりしている人がいるときは、なるべくその人の後ろを通る。
合掌は日本でもなじみのある所作なので、日本の方にとっては取り入れやすいはずです。韓国のマナー全般と同じく、大切なのは完璧な型よりも、相手を尊重しようとする姿勢。少しぎこちなくても、心を込めた合掌はちゃんと伝わります。
「仏教徒じゃないけど、気まずくない?」
いちばん多いこの不安に対して、公式の答えはとても心強いものです。よくある質問には、性別や国籍、年齢、宗教、価値観に関係なく、気持ちさえあれば誰でも参加できると書かれていて、実際には仏教以外の宗教をもつ参加者のほうが多いとまで説明されています。テンプルステイはあくまで文化体験のプログラムとして紹介されていて、信仰を前提としたものではありません。
どの日課も参加は自由です。体調がよくないときや疲れているときは、テンプルステイのスタッフにひとこと伝えれば部屋で休んでかまいません。礼仏や108拝の間も、後ろで静かに立っていたり座っていたりするだけで十分です。信仰がなくても、誰が見ていてもいなくても毎日続けられている僧侶たちの日課を目の前で見るだけで、心を動かされるかもしれません。

外国人の参加と、お寺の選び方
templestay.com の予約ページでは「Temples for Foreigners(外国人向けの寺院)」で絞り込むことができ、海外からの参加者を想定したプログラムを探すのにいちばん手軽です。さらに公式サイトでは、テンプルステイのガイドマップを英語のほか日本語でもダウンロードできます。日本語で全体像をつかんでから、英語の予約ページに進むのもよい方法です。韓国観光公社の公式サイト VisitKorea でも、外国人向けのテンプルステイを定期的に行っている寺院の一覧を、ソウルから済州まで地域別に紹介しています。
公式のよくある質問と VisitKorea の一覧から、選ぶときのヒントをいくつか挙げておきます。
- ソウルなら、曹渓寺(チョゲサ)、奉恩寺、金仙寺、妙覚寺、津寛寺、華渓寺などが地下鉄やバスで行けるので、初めての方や短い旅程に向いています。
- 瞑想を深めたいなら、ソウルの国際禅センターや、江華島の蓮灯国際禅院。後者は外国人に広く開かれた寺院として紹介されています。
- 森と山なら江原道の月精寺(ウォルジョンサ)、山と海の両方を楽しむなら同じく江原道の洛山寺(ナクサンサ)、海と島々を見下ろす景色なら半島の南端に近い海南(ヘナム)の美黄寺(ミファンサ)。
- 寺院料理なら南西部・長城(チャンソン)の白羊寺(ペギャンサ)、体を動かしたいなら慶州近くの骨窟寺(コルグルサ)で、瞑想と武術を組み合わせた「禅武道」を体験できます。
- ユネスコ世界遺産の寺院では、法住寺、仏国寺、麻谷寺、海印寺が英語のテンプルステイを実施していると、公式のよくある質問で紹介されています。
予約の手順
- templestay.com で英語ページに切り替え、「Reservations」を開く。地域、プログラムのタイプ、人数で絞り込むか、外国人向け寺院のオプションを選ぶ。
- 各プログラムのページで、日程、お寺で用意されているもの、料金、個室の有無などをよく確認する。
- 予約確認書を持参する必要はありません。各寺院が予約者リストを持っているためです。確認書を送らないお寺もあるので、気になる場合は予約名・日付・寺院名を添えて、お寺か templestay.com のサポート窓口に問い合わせる。
- 日程変更やキャンセルはお寺に直接、または templestay.com のサポート窓口へ。受け付けていない日もあるので、先にサイトのカレンダーを確認する。
- ソウル滞在中なら、曹渓寺の向かいにあるテンプルステイ情報センターで直接相談もできます。地下鉄1号線鍾閣駅2番出口、または3号線安国駅6番出口から徒歩5分ほど。元日、ソルラル(旧正月)、チュソク(秋夕)は休みです。
持ち物リスト
公式サイトによると、多くのお寺で用意されているのは石けん、歯みがき粉、そしてベストとズボンの修行服だけです。それ以外は持参しましょう。
- タオル、シャンプー、歯ブラシ、洗顔料
- 必要ならヘアドライヤー
- 下着、靴下、着替え
- カーディガンやフリース、上着など暖かい服。公式サイトでも、真夏以外は山寺の朝晩は冷え込み、冬は想像以上に寒いと注意を呼びかけています。
- 相部屋に備えて、耳栓やアイマスクがあると安心です。
不安な方への、正直なひとこと
朝の早さは本物です。朝4時の礼仏がどうしても無理そうなら、休息型や当日型を選ぶか、ほかの参加者と同じように早めに寝てしまいましょう。床での時間も長く、礼仏ではひざまずいたり座布団に座ったりするので、慣れていないと体がこわばることもあります。膝や腰に不安がある方はスタッフに伝えておけば、108拝を無理にすすめられることはありません。食事は肉を使わない素朴なものです。予約フォームにはお寺への伝達事項を書く欄があるので、アレルギーなどはそこで伝えておくと安心です。
実際に参加した人が驚くのは、求められることの少なさです。参加者はあくまでお客さんで、修行僧になるわけではありません。お寺は2002年から、好奇心をもってやって来る人たちを迎え続けてきました。儀式を知っていることを前提にしている人はいません。開かれた気持ちと、暖かい上着を一枚。一日だけお寺のリズムに身を任せてみれば、多くの人と同じように、暗闇に響いたあの鐘の音を、旅の思い出のいちばん最初に挙げることになるかもしれません。
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