初めての韓国旅行で知っておきたいマナー:儒教の国で本当に大切なこと

お辞儀、年上への礼儀、お酒の席のルール。初めての韓国旅行で本当に気をつけたいことと、気にしすぎなくていいことを、韓国在住の目線でまとめました。

発行:Haeva Korea · 2026年10月15日

朝日の差すソウル・北村韓屋村の静かな路地に、瓦屋根の韓屋が並んでいる
朝日の差すソウル・北村韓屋村の静かな路地に、瓦屋根の韓屋が並んでいる写真: Basile Morin / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

初めての韓国旅行を前に、「儒教の国だから年上への礼儀が厳しいらしい」「お酒の注ぎ方にも決まりがあるらしい」と聞いて、少し身構えている方も多いのではないでしょうか。日本とよく似た習慣も多い一方で、似ているからこそ思わぬところで逆になっているマナーもあります。

先に安心していただきたいのは、韓国の人は旅行者に完璧なマナーを求めていない、ということです。うっかり間違えても、それで気を悪くする人はほとんどいません。見られているのは「相手を尊重しようとしているかどうか」。この記事では、韓国で暮らす私たちの目線から、その礼儀がどこから来ているのか、旅行者が本当に押さえておけばいいのはどれか、そして気にしすぎなくていいのはどれかをまとめました。

なぜ今も「年齢」と「上下関係」が大切にされるのか

1392年から約500年続いた朝鮮王朝は、朱子学(性理学)を国の土台に据えました。親を敬う「孝」、目上と目下の秩序といった考え方は、個人の美徳というより、国家や家族、村の仕組みそのものでした。王朝はとうに終わり、今の韓国はデジタル化が進んだ、くだけた雰囲気の国でもありますが、その「順序」の感覚は言葉づかいや小さなしぐさの中に残っています。

韓国語は相手によって話し方の丁寧さが変わるため、初対面の大人同士はまず「どちらが年上か」を確かめることがよくあります。年齢や生まれ年を聞かれても、詮索ではなく「どう話せばいいか」を知るための質問です。なお韓国では2023年6月28日から、法律や行政の場面で国際的な満年齢を使うことになり、生まれた時点で1歳と数える、いわゆる「韓国式の年齢」は公的な場面ではほぼ使われなくなりました。

とはいえ旅行者は、この序列の少し外側にいる存在です。多くの場合、相手は丁寧で中立的な言葉か英語で話しかけてくれます。背景を知っておく意味は、これから紹介するしぐさが「なぜそうするのか」腑に落ちるようになることにあります。

まずはこれだけ:場面別の早見表

場面韓国の人がよくすること旅行者はこれで十分
あいさつ軽く頭を下げて「アンニョンハセヨ」会釈と「アンニョンハセヨ」
物の受け渡し両手で。片手のときはもう一方の手を手首や腕に添えるお金・カード・贈り物・お酒は両手で
食事の始まり年長者がスプーンを取るまで待つひと呼吸おいてから食べ始める
ご飯の器器はテーブルに置いたまま、スプーンで食べる日本の癖で器を持ち上げない
箸ご飯に箸を立てない(祭祀を連想させる)箸は器かテーブルの上に置く
お酒人に注ぎ、自分では注がない。年長者の前では顔を少しそむけて飲む注がれるときはグラスを両手で持つ
支払い誰か一人がまとめて払うことが多い。チップはなしチップは置かない
地下鉄優先席は空けておく。車内では静かに降りる人が先。通話は小声で
韓国の人がふだんすることと、旅行者ならこれで十分という目安出典: Korea.net、VisitKorea(韓国観光公社)、ソウル交通公社

あいさつは会釈ひとつで十分

韓国のふだんのあいさつは、首と肩で軽く頭を下げながらの「アンニョンハセヨ」です。親しい間柄ならうなずく程度、とても改まった場面やずっと年上の人に対しては深くゆっくりになります。ビジネスでは握手も一般的で、軽くお辞儀をしながら、左手を右腕に添えて握手をする人もいます。

日本の方にとっては、ここはむしろ得意分野かもしれません。お店に入ったときや会計のときに店員さんが頭を下げてくれたら、軽く会釈を返すだけで十分に感じよく伝わります。角度を合わせる必要はまったくありません。

「両手」は敬意のしるし

初日から取り入れたい習慣をひとつだけ挙げるなら、これです。人に物を渡すとき、受け取るときは両手で。レジでのお金やカード、名刺、贈り物、お茶、そして何よりお酒を注いでもらうときのグラスがそうです。片手がふさがっているときは、もう一方の手を手首や腕にそっと添えます。目立たないしぐさですが、「この国のことをわかっている」といちばん伝わる動作のひとつです。

食卓で気をつけたいこと

韓国の食事は基本的に「みんなで分ける」スタイルです。パンチャンと呼ばれるおかずがテーブルの真ん中に並び、各自がそこから取って食べます。多くの店ではおかずや水のおかわりは無料です。韓国観光公社の公式サイトも、韓国ではチップは必要なく、期待もされていないとはっきり書いています。テーブルに小銭を残していくと、忘れ物だと思った店員さんが追いかけてくることさえあります。

伝統的な食卓のマナーは、年長者を中心に回ります。年下の人は、その席でいちばん年上の人がスプーンや箸を手に取るまで待ち、年長者よりずっと早く食べ終えないのが礼儀とされます。日本の方が特に気をつけたいのは、ご飯の器を持ち上げて食べないことです。日本ではきちんとした作法でも、韓国では器はテーブルに置いたままにして、スプーンでご飯を口に運ぶのが普通です。ご飯に箸を立てないのは日本と同じで、これも亡くなった人への供え物を連想させるからです。

韓国式焼肉の席で、女性が向かいの人の小さなグラスに焼酎を注いでいる
焼肉の席で焼酎を注ぎ合う様子。注ぐ人が空いた手を手首のあたりに添えているのは、相手への敬意を示すしぐさです。写真: Kai Hendry / CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

お酒の席のマナー

儒教的な礼儀がいちばんはっきり表れるのがお酒の席ですが、同時に旅行者にいちばん寛容な場面でもあります。基本は「お互いに気を配る」こと。周りの人のグラスに注ぎ、自分のグラスは誰かに注いでもらいます。手酌は禁止ではありませんが、少しさびしく見えるので、たいてい誰かがすぐに注いでくれます。お互いに注ぎ合う文化は日本にもあるので、なじみやすいはずです。

年上の人に注いでもらうときは、グラスを両手で持つか、片手で持ってもう一方の手を手首に添えます。ずっと年上の人の前で飲むときは、顔を少し横にそむけて飲む人が多いです。注がれるたびに飲み干す必要はありません。もう十分というときは、グラスにお酒を残しておくのがいちばん簡単な合図です。お酒を飲まない方は、最初にそう伝えてもまったく問題ありません。ソフトドリンクのグラスを掲げれば、乾杯にはちゃんと加われます。

地下鉄と街なかで

ソウルの地下鉄車両の端にある優先席。高齢者、妊婦、けがをした人、子ども連れのピクトグラムが表示されている
ソウルの地下鉄の車両の端にある優先席。誰のための席かがピクトグラムで示されています。写真: hyolee2 / CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

旅行者が韓国の礼儀にいちばんよく触れるのは公共交通機関で、ここでのルールは儀礼的というより実用的です。各車両の端の席は、高齢者、体の不自由な人、妊婦、小さな子ども連れの人のための優先席です。妊婦のためのピンク色の席がある路線も多くあります。車内が混んでいても、地元の人はこれらの席を空けたままにしていることが多いので、旅行者も同じようにしましょう。

ソウル交通公社は、乗客向けのマナーを短くまとめて公開しています。旅行者が覚えておきたいのは次の点です。

最後の「右側通行」は、日本の駅とは逆になる場合もあるので、少し意識しておくと安心です。列にきちんと並ぶ、静かな場所で大声で電話しない、狭い路地や店の入り口で写真のために立ち止まらない、といった点も同じ気配りの延長です。

祝日と祭祀:伝統がいちばん見える場面

赤い漆塗りの台に、りんご、いちご、貝、干し魚、揚げ菓子が並べられた韓国の祭祀の膳
祝日の朝、祖先を祀る「茶礼(チャレ)」の膳。果物や魚介、菓子が漆塗りの台に並べられます。写真: jinsoo jang / CC0, via Wikimedia Commons

儒教の伝統がいちばん目に見える形で残っているのは、旧正月のソルラルと、秋の収穫を祝うチュソク(秋夕)という二大名節です。多くの家族がいちばん年長の親族の家に集まって料理を用意し、祖先に食べ物を供えて順にお辞儀をする「茶礼(チャレ)」という短い儀式を行います。ソルラルには、子どもや若い世代が年長者に深くお辞儀をする「セベ」があり、年長者はひとことの助言と、お年玉にあたるお金の入った封筒で応えます。

旅行者が家族の祭祀に参加することはまずありませんが、名節は旅程に現実的な影響があります。列車や高速バスは早い時期に売り切れ、ソウルから地方へ向かう道路は大渋滞し、家族経営の小さな食堂やお店は数日休むことがあります。一方で、大型店や古宮、街なかの観光地は営業していることが多いです。日程がソルラルやチュソクに重なる場合は、交通機関を早めに予約し、営業時間を確認しておきましょう。

知っておくと安心な小さなタブー

どれも法律ではなく習慣で、若い世代の中には気にしない人もいます。知っておけば、気まずい瞬間を避けられるという程度に考えてください。日本と共通するものも多いので、覚えるのはそれほど難しくないはずです。

気にしすぎなくていいこと

韓国語が話せなくても大丈夫ですし、敬語を使いこなすことを期待している人もいません。「アンニョンハセヨ(こんにちは)」と「カムサハムニダ(ありがとうございます)」があれば十分に通じますし、都市部では旅行者だとわかると英語に切り替えてくれる人も多くいます。うっかり手酌をしてしまった、年長者より先に食べ終えてしまった、片手で受け取ってしまった。そんなときも、たいていは笑顔で流してもらえます。

むしろ印象に残るのは、全体としての姿勢です。お辞儀を返す、食べ始める前にひと呼吸おく、席を譲る、車内で声を落とす。そうした小さなサインが「この場所を尊重しています」という気持ちを伝えますし、敬意を軸にした文化では、それこそが相手の求めているものです。周りの人の振る舞いを少し観察しながら旅をすれば、韓国はマナー本が思わせるよりずっと温かく迎えてくれるはずです。

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