安東・河回村ガイド:ソウルから日帰り・1泊で訪ねる世界遺産の村

人が暮らす世界遺産・河回村と安東への行き方、仮面劇の公演日、芙蓉台と屛山書院、チムタクなどの郷土料理、日帰りと1泊のモデルプランを紹介します。

発行:Haeva Korea · 2026年10月27日

洛東江の流れと砂州の向こうに河回村の家並みが広がり、その奥に緑の山並みが続いている
洛東江の流れと砂州の向こうに河回村の家並みが広がり、その奥に緑の山並みが続いている写真: Bernard Gagnon / CC0, via Wikimedia Commons

初めての韓国旅行は、ソウルから釜山へ、途中で慶州に寄る、というルートになりがちです。安東(アンドン)はその線から少し外れた、慶尚北道(キョンサンブクド)の山あいの街。だからこそ寄り道する価値があります。両班(ヤンバン)の屋敷が並ぶ一族の村、川に面した儒学の書院、そして同じ村で何百年も演じられてきた仮面劇。韓国の「儒教の伝統」をいちばん身近に感じられる場所です。

中心になるのは、市街地の西の農村部、洛東江(ナクトンガン)が大きく蛇行する内側にある河回(ハフェ)村です。ここは博物館でも撮影用のセットでもありません。今も人が暮らし、畑を耕し、自宅を民泊として開いている家もあります。それが見学の仕方にも関わってきます。この記事では、ソウルから安東への行き方、安東から河回村への移動、村での見どころ、街で食べたい郷土料理、そして日帰りと1泊の2つのモデルプランを紹介します。

河回村が特別な理由

河回村は豊山柳(プンサン・リュ)氏の一族が代々暮らしてきた同族村です。安東市の観光サイトによると、一族の先祖がこの地に根を下ろしたのはおよそ600年前。朝鮮時代の儒学者、柳雲龍(リュ・ウンニョン)と柳成龍(リュ・ソンニョン)の出身地としても知られています。「河回」という名は、洛東江が村を三方から包むように回って流れることに由来します。村全体が1984年に国の民俗文化遺産に指定されました。

2010年7月、ブラジリアで開かれた第34回世界遺産委員会で、慶州近くの良洞(ヤンドン)村とともに「韓国の歴史村:河回と良洞」としてユネスコ世界遺産に登録されました。安東市の説明によると、評価されたのは二つの点です。ひとつは、屋敷や楼亭、書院の配置そのものが朝鮮時代の両班社会と儒教文化を映していること。もうひとつは、祭祀や季節の行事など、住民が今も受け継いでいる暮らしの文化です。

ここで覚えておきたいのは、やはり「人が住んでいる」ということです。村の公式サイトを運営する河回村保存会は、ソウル近郊の韓国民俗村が観光のために造られた施設であるのに対し、河回村は自然にできた村であり行政区でもあって、私的な生活空間と観光客に開かれた空間が一つの村の中に共存している、と説明しています。人口については市と保存会で数字が少し違いますが、どちらも100世帯を超えるとしています。日本でいえば、白川郷のように人の暮らしがそのまま世界遺産になっている集落を思い浮かべると近いかもしれません。市によると指定文化財の屋敷はすべて柳氏の所有です。保存会のあいさつ文では、住民にも冷蔵庫や車、新しい台所が必要だという現実を理解し、住民への配慮をお願いしたいと呼びかけています。

木々の間に河回村の瓦屋根と藁葺き屋根が並び、その奥に田んぼと山が広がっている
大きな一族の屋敷の瓦屋根と、小さな家の藁葺き屋根が隣り合う河回村。写真: Bernard Gagnon / CC0, via Wikimedia Commons

実際の心がけはシンプルです。路地では声を落とすこと。門が閉まっていれば、それは家の玄関が閉まっているのと同じ。見学用に開かれていることがはっきりした庭にだけ入ること。人を撮るときはひと声かけ、民家の屋根の上でドローンを飛ばさないこと。どれも特別なことではなく、自分の家の前を一日中知らない人が歩いていたら、と考えれば自然に分かることばかりです。韓国のマナー全般はHaevaのマナーガイドにまとめています。

ソウルから安東へ

鉄道なら中央線(チュンアンソン)です。安東市の英語版交通案内には、ソウル駅と清凉里(チョンニャンニ)駅から安東行きのKTX-イウムが掲載されています。ソウル市のニュースサイトによると、この路線は2024年12月から慶州を経て釜山の釜田(プジョン)駅まで延びました。工事の完了にあわせて時刻表が何度も変わっている路線なので、古い時刻表をあてにせず、最新の時刻はKORAILで確認してください。予約の方法はHaevaのKTXガイドで説明しています。

高速バスなら、東ソウル総合ターミナルと江南のソウル高速バスターミナルから安東行きが出ています。市の案内では所要時間はおよそ3時間。漢江の南側に泊まっている場合や、連休で列車が売り切れているときの選択肢になります。

安東に着いたら、安東駅前の慶尚北道総合観光案内所に立ち寄りましょう。市によると英語と日本語の通訳スタッフがいて、開所時間は午前9時から午後6時。安東だけでなく慶尚北道全体の情報を扱っています。河回村行きのバスを確認し、地図をもらうならここが一番です。

安東市内から河回村へ

河回村は市の西側、豊川面(プンチョンミョン)にあります。車がない場合は市内バスが基本です。安東市の観光サイトでは、安東駅・バスターミナル周辺と市内中心部から河回村へ向かうバスが案内されていて、同じ路線の一部は屛山書院(ピョンサンソウォン)にも停まります。ただし、ここ数年で路線番号が再編されており、市の英語版と韓国語版のページで番号が一致していません。そのためこの記事では番号を載せません。英語・日本語にも対応している安東市のバス情報サイトで調べるか、駅前の観光案内所で尋ねるのが確実です。

バスは数分おきに来るものではなく、一日の中に間隔をあけて運行しています。出かける前に帰りの時刻を必ず控えておきましょう。芙蓉台(プヨンデ)や屛山書院まで足を延ばすなら、バスでは行きにくい、あるいは行けない場所もあるので、タクシーが現実的です。

河回村の入場料は、市の料金表で2026年10月時点、大人1人5,000ウォン。駐車場は無料です。開門時間は季節によって変わり、市のページ同士でも記載が少し異なるので、午後遅くに着く予定なら事前に確認してください。

村を歩く

村の中央を東西に大きな道が通っています。安東市の韓国語ページによると、その北側を北村(プクチョン)、南側を南村(ナムチョン)と呼び、中心部には柳氏の大きな瓦屋根の屋敷、そのまわりを土壁や藁葺きの小さな家が囲んでいます。養真堂(ヤンジンダン)と忠孝堂(チュンヒョダン)の二つは国の「宝物」に指定され、ほかにも民俗文化遺産に指定された家がいくつもあります。

川沿いに出ると広い砂州があり、北西側には市も景観の一部として紹介している古い松林が広がります。川の向こう岸には切り立った崖がそびえ、その下に楼亭が身を寄せるように建っています。それが芙蓉台。村を見下ろす一番の展望地です。

保存会のよくある質問では、村をしっかり歩くには2〜4時間、仮面劇も見るなら全体で4時間ほどを見込むよう勧めています。市の目安はもう少し短めです。村の中にはボランティアと文化観光解説士がいる小さな案内所もあり、市によると午前10時から午後5時まで。韓国語・英語・日本語のパンフレットが用意されています。

河回別神クッ仮面劇

河回別神クッ仮面劇(ハフェ・ピョルシングッ・タルノリ)は、もともと村の守り神をまつる儀礼の一部として演じられてきた仮面劇です。現在は国家無形遺産に指定され、村を拠点とする保存会が受け継いでいます。登場するのは、威張った両班、学者ぶったソンビ、僧侶、白丁(ペクチョン)、老婆、そして主人をからかう召使いのチョレンイ。身分の高い人を笑い飛ばす風刺劇で、主人をやり込める召使いという点では、狂言の太郎冠者を思い出す人もいるかもしれません。

この劇を有名にしているのは、何より仮面そのものです。村の公式サイトによると、河回の仮面は韓国に現存する最古の仮面で、国宝に指定されています。今に伝わるのは11点で、3点は失われました。材料はハンノキで、漆を何層にも重ねて仕上げています。両班の面は、役者が顔を上に向けると笑い顔に、下に向けると怒り顔に見えるよう彫られていて、舞台を見るときに注目したいポイントです。

村が公開している2026年の公演日程では、常設公演は村の中の公演場で午後2時から3時まで、観覧は無料です。1〜2月は土・日曜、3〜12月は火曜から日曜まで。月曜は常設公演がありません。日程は事情により変更されることがあると書かれているので、当日も確認してください。夏には安東ダム近くで夜の特別公演も行われてきましたが、公式ページによって曜日の記載が異なるため、現地で確かめるのが確実です。

白い衣装に仮面をつけた演者が、牛の着ぐるみの演者のそばで踊り、後ろに観客が座っている
河回別神クッ仮面劇の常設公演。牛の着ぐるみの演者も登場する。写真: Bernard Gagnon / CC0, via Wikimedia Commons

村の入口には、1995年に開館した河回世界仮面博物館があります。河回の仮面はもちろん、韓国各地、アジア、世界の仮面を展示していて、公演の前後に見比べると劇の面白さが一段と分かります。日本の能面を思い浮かべながら見ると、表情の作り方の違いも見えてきます。

芙蓉台:村を見下ろす崖

芙蓉台は洛東江の対岸にそびえる崖で、太白(テベク)山脈の南の端にあたります。市はここを河回村を一望できる代表的な展望地として紹介しています。崖の下には玉淵精舎(オギョンジョンサ)、謙菴精舎(キョマムジョンサ)、花川書院(ファチョンソウォン)が並び、どれも柳氏ゆかりの建物です。入場は無料で、いつでも訪れることができます。

問題は行き方です。市のページには公共交通機関はなく、村から車でおよそ10分とあります。保存会によると、いったん村の外に出て、広徳橋(クァンドクキョ)という車道の橋で川を渡るルートになります。タクシーで往復するのがいちばん簡単です。また、決まった夜には、崖の下の川で伝統の火の綱遊び「船遊ジュルブルノリ」が行われます。日程やチケットは村の公式サイトで告知されます。

木々に覆われた芙蓉台の岩壁が、穏やかな川と砂州の向こうにそびえている
河回村の対岸にそびえる芙蓉台。頂上の展望地からは村を見下ろせる。写真: Idobi / CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

屛山書院

河回村の東、山ひとつ越えた所にある屛山書院は、柳成龍と息子の柳袗(リュ・ジン)をまつる儒学の私立学校です。書院とは、学問を学び、尊敬する儒学者を祭る場所でした。市によると、1572年に柳成龍が今の場所に移し、壬辰倭乱(文禄・慶長の役)の際に焼失したのち再建されました。1868年に全国の書院の大半が撤廃されたとき、残されたわずか47か所のひとつでもあります。

2019年7月には、陶山書院(トサンソウォン)など9つの書院とともに「韓国の書院」として世界遺産に登録されました。見どころは、川と対岸の山・屛山に向かって開かれた長い楼閣、晩対楼(マンデル)。市によると入場無料、開館は夏が午前9時から午後6時、冬が午後5時まで。見学時間の目安は30分ほどです。

屛山書院の晩対楼の内部。木の柱の間から、緑の山並みが見える
屛山書院の晩対楼。柱の間に、川向こうの山が額縁のように収まる。写真: Kwkhh / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ひと目で分かるまとめ

場所どんな所か行き方所要時間の目安
河回村豊山柳氏の同族村。人が暮らす世界遺産(2010年)安東駅・ターミナル周辺または市内中心部から市内バス、タクシー2〜4時間(保存会の目安)
河回別神クッ仮面劇国家無形遺産の仮面劇村の中の公演場1時間。公演日の午後2〜3時(2026年)
河回世界仮面博物館韓国・アジア・世界の仮面。1995年開館村の入口村の前後に短く
芙蓉台村の対岸の崖の展望地公共交通なし。車道の橋経由で車で約10分タクシー往復の時間を足す
屛山書院儒学の書院。世界遺産(2019年)河回方面の市内バスの一部、タクシー約30分(市の目安)
チムタク通り旧市場の中に30軒以上の安東チムタク店安東市内中心部食事1回分
河回村と周辺の見どころ。バスと公演の時刻は当日も確認を。出典: 安東市観光サイト、河回村保存会

安東で食べたいもの

安東といえば、まず安東チムタク。鶏肉を春雨や野菜と一緒に醤油ベースのたれで煮込んだ料理です。市の観光サイトでは、昔の安東の旧家の料理から生まれたという説、旧市場の鶏肉横丁で生まれたという説など、いくつかの由来が紹介されています。食べるならやはりその旧市場へ。市によると、安東旧市場の中のチムタク通りには30軒以上の専門店が集まっています。

大皿に盛られた安東チムタク。鶏肉、じゃがいも、にんじん、春雨が醤油ベースの濃い色のたれで煮込まれ、まわりにおかずが並んでいる
安東チムタク。鶏肉と野菜、春雨を醤油ベースのたれで一緒に煮込む。写真: Paula Kim / CC BY 1.0, via Wikimedia Commons

話のタネになるのがホッチェサパプ。祭祀を大切にする安東では、儀式が終わると供えた料理を家族や客で分け合う習慣がありました。ホッチェサパプは直訳すると「行われなかった祭祀のご飯」。祭祀の膳を再現した料理を、自分で混ぜて食べるビビンバです。もうひとつの名物が塩サバ。市の説明によると、海から遠い安東では、運ぶ途中で傷まないよう塩をした魚が届き、やがて人々はその味を好むようになったそうです。

安東焼酎は、どこでも売っている緑の瓶の焼酎とは別物です。市によると、穀物から造る伝統的な蒸留酒で、昔からアルコール度数45%が定番。日本の本格焼酎と同じ蒸留酒の仲間ですが、度数はかなり高めなので、少しずつ味わってください。注ぎ合いのマナーはHaevaのお酒のルールのページで紹介しています。

安東国際仮面舞フェスティバル

日程を選べるなら、街全体が仮面一色になる安東国際仮面舞フェスティバルの時期もおすすめです。市の説明では、毎年9月下旬から10月初めにかけて約10日間開かれ、韓国内外の仮面舞の団体が集まります。2026年は9月24日から10月4日まで、市内中心部や仮面舞公園、河回村などで開催されました。次回の日程は公式サイトで確認してください。

ソウルからの日帰りプラン

かなり長い一日になるので、すべてを回ろうとしないほうがうまくいきます。3〜12月の月曜は常設公演がないので、日帰りなら別の曜日を選ぶのが賢明です。

1泊2日:ゆったり版

1泊できると、この地域の良さがぐっと分かります。1日目の午後に河回村を歩いて公演を観たら、市内に泊まるか、村の中に泊まるか。市によると保存会を通じて古い家屋での宿泊体験ができ、村の公式サイトには民家を使った民泊も多数掲載されています。日帰り客が帰った夕方以降の河回村は、昼間とはまったく違う表情を見せます。

2日目は、人の少ない朝のうちに屛山書院へ。芙蓉台と仮面博物館を加え、市内でチムタクかホッチェサパプを食べてから出発しましょう。KTX-イウムは安東からさらに南へ走っているので、ソウルに戻らず慶州へ向かうこともできます。その先はHaevaの「慶州2日間モデルコース」へ。新羅の都をもっと深く知りたい方には、PDFガイド『Gyeongju, a City Guide』もあります。

全州(チョンジュ)の韓屋村をすでに訪れた方には、河回村は良い比較になります。全州は街なかの韓屋地区で、カフェや店が並ぶにぎやかな場所。河回村は同じ一族が何百年も暮らしてきた農村です。静かで伝統的な場所に泊まること自体が目的なら、テンプルステイという選択肢もあります。

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